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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1273号 判決 1949年12月27日

被告人

新美進

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人鹿又文雄提出の控訴趣意書の要旨は、

一、原審裁判官は証拠調に入る前被告人に対し本件の事実に就き詳細な訊問をしてゐるが斯ることは刑事訴訟法第二百九十一條、第二百九十二條、第二百九十六條、第二百九十七條、第二百九十三條等の規定の趣旨に照し違法の手続である。

二、原審の量刑は重きに失する。

(イ)原審は被告人に対する前科調書の記載のみを看て前科の内容を審査せずして量刑せしは失当である。

(ロ)本件の動機は相被告人細谷に対する同情に出でたものであつて何等利得の念なく、且つ被害品は全部所有者に返還され、加ふるに本件の結果被告人は新美務に対し金一万円の債務を負担するに至つた

即ち右二点に於て不当あるを以て茲に控訴の申立をした次第であると謂ふにある。

依つて按ずるに刑事訴訟法第三百十一條第二項に依れば「被告人が任意に供述する場合には裁判長は何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる」のであるから原審裁判官が証拠調に入る前に被告人を詳細に訊問したのは違法であると謂ふ論旨は理由がない。また累犯加重の場合に於ける量刑に就ては刑法第五十七條の趣旨に徴するも現に審判せられる事件を標準として之を定むべきものであるから必ずしも前刑にかゝる犯罪事実の内容を審査する必要がない。故に原審が被告人に対する前科調書の記載のみに依り刑を量定したからと謂つて何等の違法が無いばかりで無く、記録に基いて審按するに被告人に対する右前科調書の記載に依れば被告人は昭和二十一年五月三十一日名古屋区裁判所に於て窃盜罪により懲役一年に処せられ其頃右刑の執行を受け終つたことが明であるが被告人は何等改悛の情なく更に本件犯行を爲したものであつて其他諸般の事情を綜合考察すると原審の量刑は寔に相当と思はれるから論旨は理由がない。

仍つて本件控訴は総てその理由がないから之を棄却すべきものと認め刑事訴訟法第三百九十六條に則り主文の通り判決する。

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